久恒病院ではどんな診察をするの?

投球障害を持つ選手の診察を注意深くすると治療方針が決まってきます。
いくつかの異常な理学所見が何を意味するかも考えながら診察していきます。視診で肩甲骨の偏位があるかどうか左右差を視ます。
関節の可動域は、上腕骨と肩甲骨の間にある関節の左右差を評価します。
筋力評価は、インナーマッスルを念頭に置きながら行います。
外旋や内旋の筋力、運動初期の外転力の左右差を注意深く評価します。
 
次に関節の不安定性を徒手的に上腕骨頭の動きで下の方向や前後方向のぐらつきで評価します。
疼痛について、肩峰下の痛みや関節内の痛みの再現性を診ます。
インピンジメントテストやインタ-ナルインピンジメントテストなどがそれです。
野球という投げる動作から評価すると股関節の診察も必要となってきます。
(九州スポーツ医科学研究会で報告)
 
次にレントゲン検査は、一般撮影以外に万歳の肢位(ゼロポジション)
撮影に興味ある結果が出ます。
肩甲骨長軸と上腕骨長軸の比較で4グループに分けられます。
その結果インナーマッスル筋力訓練とゼロポジションの関係で興味ある結果がでています(九州スポーツ医科学研究会で報告)。
 
野球人の肩は消耗品とする考えがあります。
超音波検査で棘下筋の筋腹を調査し、投球側が痩せている傾向にあるという結果がでています。やはり肩は、消耗品ですか?(関節外科雑誌に論文提出済)

どんな治療をするの?

野球肩の治療は、ボールを投げないでお薬で様子を観ましょうではなく、積極的なリハビリを中心とした保存療法が最初ですし最良です。
インナーマッスルに炎症がある場合、筋力訓練はアイソメトリックで行い、炎症が治まってダイナミックな動きに変更します。
アウターマッスルの筋肉に拘縮が生じている場合、超音波やマッサージで柔らかくします。この時期、温熱療法が必須です。
同時に股関節のストレッチを加えながら肩関節のリハビリを続けます。肩峰下インピンジメントに注意しながら関節の可動域をあげていきます。
異常な理学所見の正常化により投球が開始されます。
大体、受診後リハビリ次第ですが、3週から4週で投球が開始されます。ただしプログレッシブスローイング(段階的に距離を伸ばしていく投球法) になります。
当院の独自の治療法にミニキャンプ(短期入院リハビリ治療)がありますが、そのアンケート調査結果で93%の選手が元のスポーツに復帰していました。
 
もしも、3ヶ月から6ヶ月のリハビリなどの保存療法で投球時痛が治らない時は、手術を考えます。関節造影やMRIで精密検査し手術の対象部位をさがします。 

エアーフリッパー

インナーマッスルの訓練機として空気抵抗を利用したものが巨人軍の工藤公康さんとスポーツメーカーのミズノさんの協力で平成16年5月から市販されるようになりました。
この訓練機は、当院の原ベースボール医学研究所で4年前から研究していたインナーマッスルの訓練機です。(エアーフリッパー)と命名されています。

どんな手術になるの?

手術は、内視鏡による鏡視下手術で行います。
7mm程度の傷が3カ所から4カ所で手術ができます。対象疾患は、関節唇損傷、関節靱帯損傷、腱板損傷、インピンジメント症候群です。
 
当院では、平成15年5月までに170例以上の野球選手の手術をしています。そのうちプロ野球選手が19名います。
 
ダイエー11名、近鉄1名、広島2名、阪神2名、中日2名、巨人1名です。
術後1年以上たったプロ18名の中で試合に復帰出来たのが15名です。
その中から、ホームラン王や20勝投手が出ています。
 
プロ退団時に手術した2名は、疼痛がとれて入団の再挑戦をしましたが他のプロ球団に入団出来ませんでした。残念ながら1名は、投球時痛がとれずプロ球団を退団しています。
 
術後について、関節唇断裂の場合は術後4ヶ月の復帰をメドにリハビリをします。肩峰形成術の手術をした選手は、5ヶ月の復帰をメドにします。
 
平成11年までの調査をしました。手術した高校性、大学生、社会人、プロを含めた103名の術後の結果がでています。
 
約50%の選手が完全復帰していました。
約40%の選手は野球に復帰はしたもののレベルがもとの状態に戻っていませんでした。
残りの10%は残念ながら復帰できていませんでした。(学会に報告済み)

原院長から患者さんへ

野球肩のほとんどの選手は、専門的なリハビリ治療で治ります。

また手術をすれば必ず治るという訳でもありませんが、保存的療法で痛みがとれないから野球をあきらめるというのであれば、一度は、復帰や復活を目指し手術を考えてみてもいいのではないでしょうか